フィラリア症患者におけるエゼチミブのコレステロール吸収阻害による大量蛋白尿と重症チル尿の治療効果 | Grain of sound
Discussion
当院のフィラリア症患者はエゼチミブ投与によりネフローゼ範囲の蛋白尿と重症チル尿の両方に顕著な改善を認めた. 腎生検では良性の腎硬化症が認められ,このような大量の蛋白尿を説明することはできなかった. フィラリア急性感染症に伴う糸球体腎炎は,これまでにも多くの報告があり,「フィラリア腎症」と呼ばれている. これらの報告では、膜性、中膜毛細管性、慢性硬化性糸球体腎炎など、さまざまなタイプの腎障害が、光学顕微鏡検査によって報告されている。 また、免疫蛍光顕微鏡では、IgGやC3の粒状沈着が報告されている。 我々の患者では、光および免疫蛍光顕微鏡検査で糸球体腎炎を示す所見は認められなかった。 8161>
フィラリア症におけるリンパ管の組織変化は,成虫によるリンパ管の炎症性損傷に起因する. 成虫はリンパ管に移動して炎症過程を刺激し、リンパ管閉塞を引き起こして腸管リンパの流出を妨げる。 その結果、リンパ管内圧力が上昇し、腎盂や萼の粘膜の脆弱な部位が破裂し、尿路に胆汁が漏出する ………………….という流れである。 8161>
エゼチミブによるコレステロールの吸収阻害は、本症例のようなフィラリア症における大量の蛋白尿や胆汁尿の治療に著明な効果を示すと思われる。 エゼチミブは,腸管ブラシボーダーでブロックすることにより,食事性および胆汁性コレステロールの吸収を阻害する新しいクラスの薬剤の第一号である。 エゼチミブの分子標的は、最近、小腸のコレステロール輸送タンパク質で、特に刷子縁に発現しているNiemann-Pick C1-like 1 (NPC1L1)であることが明らかになった。 本症例では、エゼチミブによる治療介入により、腸からのチロースリンパ吸収が減少し、リンパ管内圧の減少を介して腎盂・萼の粘膜破裂が予防された可能性がある。 この事実は、フィラリア症におけるチル尿やネフローゼ範囲のタンパク尿の病態に、リンパ管内圧力が重要な役割を果たしていることを示唆していると思われる。 軽症例では、保存的管理として、安静と高タンパク・高水分摂取の厳格な低脂肪食が推奨される。 難治性の重症チル尿で、多量の蛋白尿、低蛋白血症、進行性の体重減少、低ガンマグロブリン血症による免疫不全状態を呈する患者には、外科的治療が適応となる。 手術の侵襲性や再手術の困難さの観点から、外科的治療のリスクは低いと考えるべきでない。 文献上では、チロチン尿の患者の50%程度で自然寛解が見られるとの報告があるが、本症例では、チロチン尿の継続あるいは寛解に寄与する他の要因が明らかではなかったので、エゼチミブと無関係の自然寛解である可能性を完全に否定することはできない。 しかし、自然寛解した一連の症例におけるチル尿の平均期間は44.3ヶ月であった 。 エゼチミブ中止後にチル尿が再発し、再投与後にチル尿が改善すれば、この薬剤のチル尿改善への寄与がより明確になったはずである。 しかし、患者はチル尿再発の懸念からエゼチミブの継続投与を強く希望したため、当科を通じてエゼチミブ投与と脂肪制限食を継続している。 退院後6ヶ月間、チル尿の再発はない。
ここに、エゼチミブによる治療で重症チル尿、ネフローゼ範囲のタンパク尿ともに顕著に改善したフィラリア症の一例を報告する。 エゼチミブによる治療は,チル尿の管理における有効かつ安全な治療法となる可能性があり,フィラリア症患者がチル尿と大量のタンパク尿を呈する場合,侵襲的な外科的処置に頼る前に検討すべきであろう
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